商標関連情報
「鉄なべ」(飲食物の提供) 「役務の提供の用に供する物」の表示に該当
種 別 判定
判定請求番号 判定2017-600010
確 定 日 平成29年(2017)8月3日
主な関連規程 商標法第26条第1項第3号、第27条、同第28条
事案の概要
請求人は、「本店鉄なべ」なる商標(本件商標)を「飲食物の提供」を指定役務として昭和12年4月21日に商標権設定登録し、昭和33年より福岡県北九州市八幡西区において餃子料理を中心とする飲食店を創業し、標章「鉄なべ」の使用を開始した。その後、遅くとも平成12年頃より、役務「飲食物の提供」について、本件商標「本店鉄なべ」の使用を開始し、被請求人に対して通告書を発した時までには、福岡県北九州市において、需要者の間に広く認識されるに至っている。
一方、被請求人は、主として餃子料理を提供する飲食店を経営しており、「鉄なべ」の標章からなるイ号標章を付して、福岡県北九州市小倉北区内の3店舗において、「飲食物の提供」の業務を行っている。
そこで、請求人は、被請求人に対し、次を要旨とする通告書を発した。
(通告書の要旨)
1)イ号標章が本件商標と類似していること
2)請求人の店舗と被請求人の店舗とが、共に北九州市内にあり、共にテレビ番組で紹介され、需要者の間で混同を生じていること
3)両店舗の餃子の味が異なり、苦情があること
これに対して、被請求人は、回答書において、次の如く述べている。
(回答書の要旨)
1)「鉄なべ」自体には識別力が存在せず、本件商標は全体で識別力が存在するため、イ号商標は本件商標と類似ではない
2)需要者において現に出所の混同が生じている事実はない
そこで、請求人は、本件商標の効力の範囲について、本件判定を求めた。
本件商標
指定役務 第42類 飲食物の提供
イ号標章
鉄なべ
使用に係る役務 飲食物の提供
結 論
役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しない。
理 由
1 商標権の効力範囲について
商標権の効力は、商標権の本来的な効力である専用権(使用権)にとどまらず、禁止的効力(禁止権)を含むものであって、指定役務と同一又は類似の役務についての登録商標と同一又は類似の商標の使用に及ぶものであるが(商標法第25条、第37条)、同時に同法第26条第1項各号のいずれかに該当する商標(他の商標の一部となっているものを含む。)にはその効力は及ばない。
そして、同法第26条第1項第3号には、「当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、提供の用に供する物、・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」と規定されているところ、イ号標章が同号に該当するか否かについて、以下に検討する。
2 「鉄なべ」の文字について
「鉄なべ」の文字は、その構成中「鉄」の文字が、「金属元素の一種」の意味を、「なべ」の文字が、「食物を煮たりいためたりする器」の意味をそれぞれ有するものであり、広く一般によく知られ、親しまれている。そうすると「鉄なべ」の文字は、役務「飲食物の提供」に使用する場合には、「役務の提供の用に供する物」を表示するものであるというべきである。
3 イ号標章について
イ号標章は、「鉄なべ」の文字を横書きしてなるものであり、その文字の態様も、その書体に特徴を有するものではないので、普通に用いる方法で表示してなるものである。
そうすると、イ号標章は、これを飲食物の提供に使用する場合には、商標法第26条第1項第3号に該当する。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、「国語辞典において、『鉄鍋』・『鉄なべ』の項目はなく、辞書に載っている普通名称ではない。また、『鉄製の鍋』を想起したとしても、『鍋料理』については、『ふぐ鍋』、『鳥鍋』、『もつ鍋』のように、具体的な料理名や材料名を挙げて呼ぶことが多いため、『鉄鍋』、『鉄なべ』から『鉄製の鍋を用いた鍋料理』を想起することはない。」旨主張している。
しかしながら、「鉄なべ」の文字は、辞書に載っている普通名称ではないとしても、「鉄製の鍋」程の意味合いとして理解されるものである。そして、「餃子の提供」との関係においては、一種の餃子の提供形態として、鉄なべに載せて提供される餃子があることからすれば、「鉄なべ」の文字は、食べ物の提供のために用いられる「鉄製の鍋」を理解させるものというのが相当である。
(2) 請求人は、複数の店舗や派生店を有している飲食店の本拠となる店が『本店』の文字を使用することは一般的であり、本件商標の要部は『鉄なべ』の文字といえる。したがって、イ号標章は本件商標と類似である旨主張している。
しかしながら、本件商標は、その構成中の「本店」の文字が、「営業の本拠である店。」を意味するものであって、識別力がないものであり、また、「鉄なべ」の文字は、「鉄製の鍋」程の意味合いが容易に理解されるものであって、「役務の提供の用に供する物」を表示するものとして、いずれも自他役務の識別標識として機能しないものであるところ、本件商標は、両文字が結合した一連一体の商標として識別力が発揮されるものである。
そうすると、本件商標において、「鉄なべ」の文字部分が要部として、取引において資されるものではない。
5 まとめ
以上のとおり、被請求人が、役務「飲食物の提供」に使用するイ号標章は、「役務の提供の用に供する物」を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第1項第3号に該当するから、本件商標の商標権の範囲に属しない。
平成29年9月29日発行「審決」より 2017.11.27 ANDO