商標関連情報
「オリンピック」(オリンピック競技大会) 「オカリンピック」は公益事業に類似し無効
種 別 無効の審決
審 判 番 号 無効2016-890064
確 定 日 平成29年(2017)9月4日
主な関連規程 商標法第4条第1項第6号
事案の概要
「オカリンピック」なる商標(下記「本件商標」)が、「オカリナ音楽の演奏の興行の企画」等を指定役務として商標登録された。
これに対して、「IOC」(オリンピック競技大会を運営統括する国際的非政府の非営利団体)が、自己の標章が、自らが主催・運営するオリンピック競技大会が公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な商標(下記「引用商標」)と類似するから、その登録は、商標法第4条第1項第6号に該当し、無効にされるべきものと主張して、無効審判を提起した。
併せて、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号にも該当する旨を主張した。
本件商標
指定役務
第41類 オカリナ音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営 等
引用商標1
指定役務
第41類 オリンピック競技大会・オリンピック冬季競技大会、・アジア競技大会、ユニバーシアードその他これらに準ずる国際的総合競技大会の開催 等
引用商標2
指定役務
第41類技芸・スポーツ又は知識の教授 等
引用商標3
指定役務
Education;Providing of training 等
引用商標4
指定役務
第41類 Educational services 等
結 論
本件商標の登録を無効とする。
理 由(要旨)
1 商標法第4条第1項第6号該当性について
(1)商標法第4条第1項第6号について
商標法第4条第1項第6号は、商標登録を受けることができない商標として、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」が規定されている。
同号に趣旨は、同号に掲げる団体等の公益性にかんがみ、その権威を尊重するとともに、出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり、同号の規定に該当する商標は、これらの団体の権威を損ない、また、出所の混同を生ずるものとみなして、無関係の私人による商標登録を排除するものと解するのが相当である(知財高裁 平成20年(行ケ)第10351号判決)。
(2)請求人及び同人が行う事業の公益性について
請求人は、近代オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタンの提唱により1894年6月2日に設立されたオリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体である「コミテ アンテル ナショナル オリンピック」であって、「IOC」と略称されるものである。
請求人は、「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」といえ、請求人が行うオリンピック競技大会は、「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」である。
(3)引用商標における「オリンピック」及び「OLYMPIC」の文字並びに五輪の図形は、請求人が行うオリンピック競技大会を表彰するものとして使用されているものである。
そうすれば、引用商標は、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」といえる。
(3)引用商標の著名性について
ア 「OLYMPIC」、「オリンピック」の文字及び五輪の図形は、オリンピック競技大会を表象する標章として全世界的規模で使用されてきたものであり、オリンピック憲章に基づき、その使用が厳格に管理されている。
イ 2016年第三十一回夏季オリンピックリオデジャネイロ大会には過去最大の205の国と地域から約1万1300人の選手が参加した。加えて、平成32年(2020年)のは、東京において第三十二回夏季オリンピック東京大会の開催が決定している。
ウ 引用商標は、オリンピックに関連する各種雑誌、等に表示されている。
エ 請求人は、各国NGO等と共に、オリンピック・ムーブメントの推進と、オリンピック競技大会運営のための資金調達を目的としたマーケティング活動を実施している。
オ 我が国においても、JOC(日本オリンピック委員会)等が、オリンピック・ムーブメントの普及・啓蒙事業の一環として、オリンピック競技大会に関する各種教育、文化活動を日本国内で精力的に行っている。
カ 以上を総合すると、引用商標は、オリンピック競技大会を表象するものとして、我が国はもとより世界的に著名になっていたと認められる。
(4)本件商標と引用商標との類似性について
(ア)本件商標と引用商標1との類似性
本願商標と引用商標1とは、外観において、2文字目における「カ」の文字の有無において相違する。
しかして、該「カ」の文字は、看者の注意を惹くとはいい難い中間に位置するものであり、かかる差異は看者の印象・記憶に影響を及ぼすものではなく、全体としては極めて近似した綴りの文字からなるものと印象されるものである。引用商標1が「国際オリンピック大会」を表象する商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていることからすれば、その独創的ともいえる「オリンピック」の商標と、語頭の「オ」及び後半部の「リンピック」の綴りを同一とする本件商標の片仮名部分は、「国際オリンピック大会(OLYMPIC/オリンピック)」と関連付けて看取される構成態様といえるものであるから、両商標は、外観において近似した印象を与える。
また、称呼においては、2音目の「カ」の音の有無の差異を有するものであるが、中間に位置するものであって、それほど、その差異が称呼全体に及ぼす影響が大きいものとはいえず、両商標を一連のものとして称呼した場合には、語調、語感が近似したものとして聴取されるから、両商標は、称呼上類似するものといえる。
さらに、観念においては、本件商標は、一種の造語であるもののその構成文字において、上記した外観及び称呼によれば「国際オリンピック大会(OLYMPIC/オリンピック)を想起させるから、両商標は、観念において近似したイメージを抱かせる。
したがって、本願商標と引用商標1とは、類似する。
(イ)本件商標と引用商標2ないし4との類否について
本願商標と引用商標2ないし4とは、外観について、中間において「ca」の文字の有無において相違する。
しかして、該「ca」の文字は、看者の注意を惹くとはいい難い中間に位置するものであり、かかる差異は、看者の印象・記憶に影響を及ぼすものでなく、両商標は外観において近似した印象を与える。
また、称呼においては、上述のとおり、両商標は、類似するものといえる。
さらに、観念においても、上述のとおり、両商標は、近似したイメージを抱かせる。
したがって、本件商標と引用商標2ないし4は、類似する商標というのが相当である。
(5)上記のとおり、本件商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名な引用商標と類似する商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。
(6)被請求人は、請求人の主張に対し、何ら答弁していない。
平成29.10.27発行「審決」より 2017.12.20 ANDO