商標関連情報
「ターザン」(冒険小説・ジャングルの王者) プラスチック加工機器の登録 国際信義・取引秩序に反す
種 別 審決取消請求事件
訴訟記号番号 平成23年(行ケ)第10399号 (知的財産高等裁判所第2部)
判 決 言 渡 平成24年6月27日
関連規程 商標法第4条第1項第7号
本件商標
ターザン(標準文字)
指定商品
第7類 プラスチック加工機械器具,プラスチック成形機用自動取出ロボット,チャック
引用商標
ターザン
(冒険小説 ジャングルの王者の名)
事案の概要
原告は、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反することを理由として、登録無効審判(無効2011-890013号)を請求したが、特許庁は、下記の理由で、同請求を不成立とする審決をした。
(請求不成立とする審決の理由)(要旨)
今日の我が国においては、「Tarzan(ターザン)がジャングルの王者という漠然としたイメージのものとして一定程度認識されているとはいえても、それが米国の作家であるバローズの著作物の題号ないしはその登場人物の名称として、あるいは原告が管理する標章として、広く認識されていたとまでは認められない。
また、「Tarzan(ターザン)の語(文字)がバローズの著作物の題号ないしはその登場人物の名称であって、請求人が管理する標章」であることを超えて、米国あるいは米国の公的機関等がその名称の管理等に密接不可分に係わってきたというような事情も認められない。
そして、原告は、我が国において「TARZAN」、「ターザン」又はこれらの語を一部に含む商標について、44件の商標権を有しているが、本件商標の指定商品である区分(第7類)の商品については商標権を有していない。原告は、第7類の商品について商標登録出願をする余裕は十二分にあったにもかかわらず、その出願を怠っていたものといわざるを得ない。そのような場合、本件商標権者(被告)と本件商標登録を受けるべきと主張する者(原告)との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで公の秩序や善良の風俗を害するおそれについて特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
してみれば、本件商標が米国若しくは米国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものとは認められないばかりでなく、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないということもできない。
したがって、本件商標は、7号に該当しない。
原告は、この審決に対して、取り消しを求めて、訴えを提起した。
主 文
特許庁が無効2011-890013号事件についてした審決を取り消す。
理 由(要旨)
1 「ターザン」の周知性について
「ターザン(Tarzan)」は、米国の作家エドガー・ライス・バローズ(1875〔明治8年〕~1950年〔昭和25年〕により1912年から出版された小説シリーズ「ターザン・シリーズ」(全26巻)に登場する主人公の名前であり、映画など「ターザン」が主人公として登場する多くの派性作品があるところ、1930年代のハリウッドによる映画化、特に水泳選手ワイズミュラーが主演した映画の人気により全世界的な知名度を有するに至ったことが認められる。
しかし、原作小説はバローズが亡くなった1950年(昭和25年)までに著作ないし発表されたものであって、1970年代以降、日本における「ターザン」人気は次第に薄れていき、本件商標の登録査定時(平成22年7月6日)の時点において、「ターザン」の原作小説又はその派生作品やタイアップ商品等が広く人々の目に触れる機会は減少していた。
我が国において本件商標登録査定時に「ターザン」の語から想起されるのは、雄叫びを挙げながら蔦を使ってジャングルを飛び回る男性の姿という漠然としたイメージであり、「ターザン」が、米国の作家であるバローズの小説「ターザン・シリーズ」の」題号又はその主人公であることや、英国貴族の血をひきながらアフリカのジャングルで類人猿に育てられ、成長してジャングルの王者として君臨するようになった人物という具体的な人物像(特徴や個性)を想起させるものとしてまでは、一般的であったということができない。
審決の認定判断に誤りがあったとはいえない。
2 公序良俗に反しないとの判断について
(1)被告が雄叫びを挙げながら蔦を使ってジャングルを飛び回る男性というイメージと被告が製作する樹脂成形品取り出しロボットの動きを重ね合せて、このようなロボットの商品名として使用することを想定して本件商標登録をしたのだとしても、そのことをもって、「ターザン」のイメージやその顧客吸引力に便乗しようとする不正の意図に基づく剽窃行為であるまでいうことはできない。
被告は、我が国の需要者が抱いている漠然としたイメージに基づいて「ターザン」を製品名として採用したものと認められる。
(2)しかしながら、日本では広く知られていないものの、独特の造語になる「ターザン」は、具体的な人物像を持つ架空の人物の名称として、小説ないし映画、ドラマで米国を中心に世界的に一貫して描写されていて、「ターザン」の語からは、日本においても他の言語においても他の観念を想起するものとは認められないことからすると、我が国で「ターザン」の語のみからなる本件商標登録を維持することは、たとえその指定商品の関係で「ターザン」の語に顧客吸引力がないとしても、国際信義に反するものというべきである。
「ターザン」の語は、米国の作家バローズの手になる小説シリーズ「ターザン・シリーズ」に登場する主人公の名前であり、本件商標登録査定時(平成22年7月6日)の時点において、日本におけるその著作権は存続していたし、派生的著作物にはなお著作権が存続し続けていた。
このように一定の価値を有する標章やキャラクターを生み出した原作小説の著作権が存続し、かつその文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた団体が存在する状況の中で、上記著作権管理団体等と関わりのない第三者が最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品又は指定役務との関係で当該商標を独占的に利用できるようになり、上記著作権管理団体による利用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。
被告は、「ターザン」の語の文化的・商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから、指定商品という限定された商品との関係においてではあっても、「ターザン」の語の利用の独占を許すことは相当ではなく、本件商標登録は、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害する行為ということができる。
(3)以上の点を総合して勘案し、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当すると判断する。
「裁判例情報」より 2018.3.22 ANDO