商標関連情報
「PUmA・ピューマのシルエット」 「KUMA・熊のシルエット」は混同しない
事件の表示 異議2016-900308
確 定 日 平成29年(2017)3月16日
主な関連規程 商標法第4条第1項第7号、同項第15号
事案の概要
「KUMA」の欧文字をロゴ化して表し、その右横に二足歩行する熊のシルエット風の図形を配してなる商標(下記の本件商標)が、ティーシャツ等の被服、運動用特殊衣服、履物、等について登録された。
これに対して、「PUmA」の欧文字をロゴ化して表し、その右に左方に跳びはねるように前進するピューマ風の図形を配してなる商標(下記の引用商標)を、スポーツウェア、靴、バッグ等について使用して著名化してきた者が、次の理由で、本件商標の登録の取消しを求めて異議申立てを行った。
(異議申し立ての主な理由)
(1)商標法第4条第1項第15号について
引用商標は、我が国において、遅くとも1972年から今日に至るまで、幅広い商品に使用され、大々的に宣伝広告されてきたものであり、申立人の業務に係るスポーツシューズ、被服、バッグ等を表示する商標として、周知・著名な商標となっている。
本件商標と引用商標とを対比すると、両商標は、4個の欧文字が横書きで大きく顕著に表されている点、その右肩上方に、熊とピューマとで動物の種類は異なるものの、四足動物が前肢を左方に突き出し、該欧文字方向に向かている様子を側面からシルエット風に描かれた図形を配した点において共通する。また、商標全体のうち、欧文字部分と図形部分が占める割合は、両商標で同じ程度であって、かつ、両商標とも黒一色の構成である点において共通である。
したがって、両商標は、構成の軌を一にするものであって、外観上酷似した印象を与える。
本件商標をその指定商品に使用する場合には、これに接する取引者、需要者は、顕著に表された欧文字4文字と熊のシルエット図形との組み合わせに着目し、周知著名となっている引用商標ないし申立人を連想、想起することは必定であり、出所について混同を生ずるおそれがある。
よって、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、引用商標が申立人の業務に係る商品を示すものとして周知著名であると承知の上で、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し、不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し、登録を受けたものといわざるを得ず、社会的妥当性欠くものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
指定商品
第25類 ティーシャツ,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,帽子等の被服,運動用特殊衣服,履物,運動用特
引用商標1(6件)
指定商品
第25、3、16、9、14類に属する商品及び第41類に属する役務
引用商標2(2件)
指定商品
第18、24類に属する商品
結 論
本件商標の登録を維持する。
理由(要旨)
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知・著名性について
申立人は、「PUmA」の文字及びピューマの図形をプーマ社のブランドとしてスポーツ用品、スポーツウエアに使用し、我が国においては、1972年から靴、バッグ、アクセサリー等について、製造・販売してきたこと、かつ、引用商標を付したTシャツ、スウェットシャツ、ジャケット、帽子、スポーツシューズ等を、少なくとも2012年には、各雑誌において掲載してきたことが認められ、また、2010年ないし2013年における「プーマ」ブランドの売上高も堅調に推移しており、「アスレチックウエア国内出荷金額」及び「サッカー・フットサルウエア国内出荷金額」においても上位を占めている。
してみれば、引用商標は、同人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっている。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度について
ア 本件商標
本件商標は、ロゴ化した「KUMA」の欧文字と熊のシルエット風の図形に相応して「クマ」の称呼を生じ、「熊」の観念を生じる。
イ 引用商標
引用商標は、ロゴ化した「PUmA」の欧文字とピューマのシルエット風図形に相応して「プーマ」又は「ピューマ」の称呼を生じ、ネコ科の哺乳類である「ピューマ」の観念を生じる。
ウ 本件商標と引用商標との比較
本件商標と引用商標とは、4個のロゴ化した欧文字と動物のシルエット図形の構成において共通する。
しかしながら、両者の第1番目の「K」と「P」の文字部分が異なる上に、本件商標における「K」の文字部分は、上端部2か所が熊の頭部及び前肢を表したシルエット図形風に右斜め上に突き出している点、第2番目の「U」の文字部分は、本件商標が北海道の地形と思しい図形要素を有する点、第3番目の「M」の文字部分は、本件商標が右縦線上に、外側に向かって4本の白抜きの線を表している点、「A」の文字部分は、本件商標の下部が、それぞれ熊の爪先を模したように表している点、及び文字全体のデザインの程度も相違する。
また、図形については、本件商標は、該構成文字の「A」の上に手を添えるように二足歩行する熊のシルエット風図形であるのに対し、引用商標は、該構成文字の右上に左方に向かって飛び跳ねるように前進するピューマのシルエット風図形である。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において相紛れるおそれはない。
称呼については、本件商標から生ずる「クマ」と引用商標から生ずる「プーマ」又は「ピューマ」とは明確に聴別できる。さらに、観念については、本件商標から「熊」の観念が生ずるのに対し、引用商標からはネコ科の哺乳類である「ピューマ」の観念が生ずるから、観念においても明確に区別できる。
そうすると、両商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(3)出所混同のおそれについて
本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異の商標というべきである。してみれば、商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件商標と引用商標とは、非類似の商標であって、別異の商標というべきものであるから、引用商標又は申立人を連想、想起させないものである。
本件商標は、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力にただ乗りする、あるいは、引用商標の出所表示機能を希釈化するなど、不正な目的をもって出願し、登録を受けたものということはできない。
(2)申立人は、本件商標権者は、過去に所有していた登録第4994944号商標(下記参照)が商標法第4条第1項第7号及び同項第15号違反を理由として、その登録を無効とする判決が確定した後に本件商標が登録出願されたことに徴すると、本件商標権者が不当な利益を得る等の目的で引用商標の特徴を模倣して出願し、登録を受けたものである旨主張する。
しかしながら、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かは、本件商標自体の具体的な構成をもって判断すべきであるところ、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標であるから、申立人の主張は採用できない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
平成29.4.28発行「審決」より 2017.5.31 ANDO
参考
「KUMA/KUmA・熊の図」(25類 洋服等) 「PUMA・ピューマの図」取引秩序を乱す―無効
登録第4994944号の無効審判事件
種 別 無効の審決
審判番号 無効2011-890089
確 定 日 平成25年12月17日(2013.12.17)
本件商標
指定商品 第25類 洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,帽子,ベルト 等
引用商標1
引用商標2
使用に係る商品
ジャケット,ジョギングパンツ,ズボン,Tシャツ,水泳着,帽子,ベルト,スポーツスーズ 等
結 論 本件商標の登録を無効とする。
理 由(商標法第4条第1項第7号該当性について)
(1)請求人が、スポーツシューズ、被服、バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業として知られていること、引用商標1は、請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていること、また、本件商標の指定商品には引用1が使用されている商品が含まれていること、本件商標を使用した商品(Tシャツ)を販売するウェブサイト中に、「北海道限定人気 パロディ・クーマ」及び「『クーマ』『KUMA』のTシャツ 赤フロントプリント プーマPUMAでは」ありません」等と記載されていることおなどを併せ考慮すると、被請求人が引用商標1ないし請求人の存在を知らなかったとはいい難く、引用商標1に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受けたものといわざるを得ない。
(2)被請求人のフリーライド等が起こりようがなく、商標法第4条第1項第7号に該当しない旨の主張について
引用商標は、独特の書体による欧文字4字と跳躍するピューマのシルエット図形を該文字部分の右肩上方に配したものであって、その構成自体独創的なものというべきであり、スポーツシューズ、被服等に世界的に永年使用されているものであって、我が国においても請求人の業務に係る商品を表示する商標として周知著名になっているものである。
そして、本件商標において用いられている欧文字4字は、子細にみれば、4文字中1文字目の「K」と「P」の文字が相違し、文字線間の隙間、各文字の間隔、一部文字の角などにおいて引用商標のそれと若干の差異がみられるものの、かかる差異は、全体としてみれば、些細なものであるから、一般需要者は、4文字という短い構成中「UmA」の3文字を同じくし、両者の欧文字部分がいずれも、近似した書体で表され、しかも全体として横長長方形の枠内に押し縮めたように表されているという共通点に強く印象付けられるというべきであり、両者における差異はその共通点を凌駕するものではない。
また、熊とピューマとの相違があるとしても、欧文字部分の右肩上方に、左方向に跳び上がる又は跳びかかるような様子をシルエット風に描いた四つ足動物を配したことは、本件商標と引用商標1とは構成の軌を一にするものというべきである。
結局、本件商標と引用商標1とは、全体として看者に外観上酷似した印象を与えるものであって、外観上彼此相紛らわしいものといえる。
加えて、数多ある書体の中で敢えて引用商標1と近似した独特な書体を採択すべき合理的理由は見出し難く、かつ、シルエット風の四つ足動物を右肩上方に配置することの必然性も見出し難いこと、また、被請求人は本件商標以外にも同様の欧文字4字とシルエット風の四つ足動物を配した構成からなる商標を複数出願していることをも併せ考慮すれば、本件商標は、周知著名な引用商標1を模倣し、引用商標1に化体した顧客吸引力に便乗しようとするものであることが強く疑われるといわざるを得ない。
かかる被請求人の行為は、信義誠実を旨とする商取引の秩序を乱すものであり、ひいては、社会の一般的道徳観念に反するものといわなければならない。
商標法第4条第1項第15号該当性について
省略
平成29.1.31発行「審決」より ANDO